これからの芸術、これまでの芸術――1 ゲスト=宮本隆司/林道郎
June 30, 2012|講義
6月9日、宮本隆司氏(写真家)、林道郎氏(西洋美術史、美術批評)をゲストに、「これからの芸術、これまでの芸術」シリーズ第1回が開催されました。まず宮本氏編集による東日本大震災の被災者が撮影した津波の記録とその撮影者へのインタビューで構成された、二つの映像による《3.11. TSUNAMI 2011》が上映されました。上映は(1995年の阪神・淡路大震災の直後に宮本氏が被災地の写真を撮影した)神戸での上映に続く2度目の上映となりました。
上映後、宮本氏より阪神・淡路大震災の撮影の経験を経て、この映像プロジェクトに至った経緯が語られ、林氏及び本校ディレクター岡﨑乾二郎を交えたディスカッションに入りました。《3.11 TSUNAMI 2011》とインターネットやテレビなどで流れた津波の映像との印象の違いが指摘され、そこから各人が決して一般化しえないバラバラで固有な経験をもつほかない災害の語りがたさ、代表し表象することの不可能性の問題が考察されました。また崇高という概念と結びつけられることで災害のイメージが容易に受容されてしまう危険性が検証されました。宮本氏が、この映像プロジェクトを個人の作品として位置づけていないこと、現在も撮影(インタビュー)を継続していることなどが説明され、それに関連して、岡﨑氏からセザンヌを例に未完結という制作過程の必然性と、加えて宮本作品の作品に一貫して、不可避的に進行する時間を捨象し、その外部=無時間的に静止した虚構を確保しようとする写真に対する抵抗がみられるという指摘がなされました。つづけて《ピンホールの家》《ダンボールの家》《建築の黙示録》《神戸1995》などの過去の作品をプロジェクター画像で観賞しました。