蔵屋美香|歴史はぶり返す:1910年代から2010年代へ|たたかうからだ 2

December 2, 2013|講義

講座「Theory Round Table」にて、蔵屋美香氏(東京国立近代美術館美術課長)による講義が10月23日・30日の2回にわたって開講されました。

歴史はぶり返す:1910年代から2010年代へ

第1回目の講義は、1910年代以降、およそ100年の間に制作された日本の美術作品を、作家に影響を及ぼす社会の変動とともに、いかに構造的に捉えることができるかという企てが、戦争や大地震などの災害との関係から試みられました。
大正デモクラシーから太平洋戦争へと突き進む過程を、あるいはそのさなかに起こった関東大震災の影響を、近年に発生した東日本大震災から現在に至る道筋と引き合わせながら、歴史的に繰り返される反復的な構造を分析しつつ、渦中の作家はどのような表現をとってきたのかが考察されました。
隠喩的な表現によって解釈の余地を残すことが、長い時間軸でメッセージを伝達・保存するとして、東京国立近代美術館の特集展示「何かがおこってる:1907-1945の軌跡」(2013年10月22日─2014年1月13日)で扱われている作品や、香月泰男の作品、さらに第55回ヴェネチア・ビエンナーレで日本館を担当した田中功起の「抽象的に話すこと - 不確かなものの共有とコレクティブ・アクト」などが取り上げられました。いずれも分裂的(多重的、多層的)な世界が写しだされ、遥か遠くの出来事を想起するものであると示されました。

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たたかうからだ 2:からだでたどる日本の美術1907-1945

第2回目の講義は、第1回目の講義で扱われた作家を含む1907年から1945年までの絵画作品を中心に、身体がどのように表現されたのかが検証されました。
水平に横たわって描かれるモデルと、垂直に立ち上がって描かれるモデルが与える効果の違いを問題に、「裸体画」というテーマにおいては、女性を垂直方向に見下ろす構図をとることで卑猥さを回避しようとした黒田清輝の《野辺》や、ほとんど立ち上がるかのように急な勾配に寝かせた萬鉄五郎の《裸婦美人》が、「死体」というテーマにおいては、水平に横たえる死体の絵画(《轢死》)を垂直に起こし、生き返るような感覚を持った熊谷守一の発見や、水平と垂直の方向に奥行きのある捻りを加え、生と死(あるいは機械)との間にある身体を描いたかにみえる古賀春江の《涯しなき逃避》などが取り上げられました。
作品の画像を見ながら受講者がポーズを模倣するという形式で講義は展開し、姿勢だけでなく、身体の捻れ方や力の入り具合、どのように見られているかなど、体感を通したさまざまな情報が引き出されました。

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