林道郎|アナグラム的想像力の可能性:抜糸と縫合のあいだに

July 27, 2013|講義

講座「Theory Round Table」にて、林道郎氏(美術史、美術批評)による講義が、6月20日、27日の2回に渡って行なわれました。講義では、ソシュールがラテン語の詩から発見したアナグラムの法則──通常の統辞法=シンタックスとは異なる、語と語の結びつきの可能性を出発点に、コミュニケーションや共同体の生成、繋がりの在り方が考察されました。

アナグラム的な操作を、意識的な操作(作者の意図)、あるいは、無意識的な操作と見做すかという起源をめぐる問いへと回収するのではなく、語(事物)が目の前に存在すること、使用されることによって生じる事実性を、前意識的な領域として捉える視点が提出されました。そして、語る主体としての作者というよりも、発見する主体として語に主導権を明け渡そうとしたマラルメの詩やセザンヌの絵画などが分析されました。

また、アナグラムの意味・有用性への抵抗という側面では、功利性、因果律を超えた自律したシステムとして道徳を考えたカントの思考や、言葉の交換経済として流通しえない、徹底的に自己消尽的な語の繋がりを分析したボードリヤールの『象徴交換と死』、さらに、熱狂的な興奮状態で立ち上がるコミュニティが、同時に演劇的(虚構)にすぎないと捉えたニーチェの『悲劇の誕生』などが取り上げられました。

ナンセンスと繋がりうる、アナグラムの遊戯的な性質においては、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』や、彼が子供たちに送った読解困難な絵文字の手紙を取り上げ、一般的な規則や秩序、伝達機能からは滑り落ちていく視点や、浪費的で自己完結的な語とイメージの連結などが検証されました。また、同様の観点から中原佑介のSF的世界観にも触れられました。

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右:ステファヌ・マラルメ《骰子一擲》1897


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