岡﨑乾二郎対談シリーズ――4 ゲスト=宇佐美圭司

March 13, 2010|講義

思考としての美術

1月23日、宇佐美圭司氏(画家)をゲストに迎え、岡﨑乾二郎対談シリーズ第4回が開催されました。

岡﨑氏は冒頭で、芸術作品に含まれた思想それ自体は、記述し歴史化することが困難であり、宇佐美氏の作品は日本現代美術史からその記述が抜け落ちていることと、その可能性について指摘しました。その作品を初期からたどるかたちで対談は進行し、《反建物》《還元》《イマジナリー・ポール》《レーザー・ビーム・ジョイント》《ゴースト・プラン》《版画集「顔」》などとともに、それらの制作と同時期に書かれたテキスト「思考操作としての美術」* が取りあげられました。とりわけ、1965年のアメリカでのワッツ暴動の報道写真を題材にした作品《ワッツの暴動 シルクスクリーン》を通して、要素に先立つ全体=空間があるのではなく、部分同士の関係が構造を構成する考えに基づく、宇佐美氏の方法論の核心である「記号操作」について、仔細に語られました。また、その抽象的な形式化の手法への、構造主義、ひいては20世紀初頭の数学の集合論からの影響が示されました。さらに、かつて宇佐美氏が記述した「失画症」などを例に、すべての現実は、形式に媒介されており、表現の前提はその絶望にあることが確認されました。そこから、ものを観察するとき、表現が生まれるために起きる切断、「ブレーキのかけ方」についても言及されました。

質疑応答を交えて、完全な構造が先験的にあるのではなく、不完全性を含んだ構造をいかに思考するか、そして、不完全な構造同士をいかに重ね合わせマッピング(射像)するかという制作上の問題や、位置づけられるべき美術史があらかじめあるのではなく、自らが歴史をつくるほかない立場とそれを貫く思想についてが語られました。

*宇佐美圭司『線の肖像――現代美術の地平から』(小沢書店、1980)所収

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Series 12345

四谷アート・ステュディウムTwitterにて、本対談の要約を掲載。
http://twilog.org/art_studium/date-100124(全13 Tweet)