岡﨑乾二郎|ブランカッチ礼拝堂壁画分析 

May 19, 2010|研究

3月28日、GALLERY OBJECTIVE CORRELATIVEにて岡﨑乾二郎(近畿大学国際人文科学研究所)による研究発表として、15世紀イタリア美術を代表する、ブランカッチ礼拝堂壁画連作《聖ペテロ伝》(マサッチオ他)の分析が行なわれました。

ルネサンスの視覚革命が、今日よく理解されるようにダ・ヴィンチの「三一致の法則」に代表されるような、絵画という単一の画面、視覚像に収まりきるものではなく、その可能性をブルネレスキの方法を再解析することで見出しうること、またその展開としてブランカッチ礼拝堂壁画を改めて捉え直す必要性が導入で語られました。そして、ブルネレスキが考案した装置などを例に、ブルネレスキや彼が育てたマサッチオらにとって、時間や空間の連続性は自明なものではなく、建築をつくることや絵を描くことが、いかに複数の知覚を重ね合わせることで成り立つものであったかが示されました。

続いて前半は、ルネサンス音楽においてその役割が、ブルネレスキやマサッチオらの芸術家グループの役割に比される、ギョーム・デュファイの《先頃、ばらの花が》(15世紀)とギョーム・ド・マショー《ノートル・ダム・ミサ曲》(14世紀)のサウンド解析が行なわれました。これら多声法の音楽を構成する「通し模倣」の技法――独立した声部が相互に相手の旋律の模倣(順行、逆行、反行、逆反行)を繰り返す――が、記譜法の発明を促したものであり、各声部間の射影変換によってうみだされた、視覚的形式に媒介された技巧であることが確認されました。

後半には、多声法の音楽の鑑賞方法を援用して、ブランカッチ礼拝堂壁画の計十二画面の中心となる主に四つの大画面が、3D解析アプリケーションによる重ね合わせを用いて分析されました。ブリューゲルによって描かれた旧約聖書ヨナ書の場面にも言及し*、そこで本来交換しえないものがいかに交換されるかが明示されました。

* 岡﨑乾二郎「魚の教え――IXOYC」『artictoc』vol.4参照。 

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サウンド解析(左)・3D解析(右)インターフェイス

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ブランカッチ礼拝堂(左)・
ブルネレスキの装置(右)模型

*本研究発表は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「デジタルメディアを基盤とした21世紀の芸術創造」の一環として行なわれた。

*本研究資料として発行されたリーフレットは、岡﨑乾二郎著『ルネサンス 経験の条件』(筑摩書房、2001)に基づいて構成/編集された。


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[7月13日開催]
京都造形芸術大学大学院・比較藝術学研究センター連続公開講座 
A.A.A.(アサダ・アキラ・アカデミア)
講演|もうひとつのルネサンスを求めて――ブランカッチ礼拝堂壁画分析
岡﨑乾二郎

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