松浦寿夫|デ=コラージュ・シティー再説

July 18, 2013|講義

講座「Theory Round Table」にて、松浦寿夫氏(画家、西欧近代絵画史)による講義が5月15日、30日の2回に渡って行なわれました。講義では、デ=コラージュ(減算的な生産形式)を命名行為に重ねながら、その可能性が文学作品や造形芸術において考察されました。

始めに、デ=コラージュという手法が、公園に貼られているポスターを部分的に引き剥がすことで都市の下層をあらわにし、驚きを作る出すものであると解説され、通常、加算的と思われる生産が、減算的な生産として成立することが指摘されました。次に、リチャード・ウォルハイムのテクスト『ミニマル・アート』を取り上げ、作品の内容が切り詰められたとき何が芸術的な構造を生産しうるのかという問題が提起され、その事例として、マルセル・デュシャンの《泉》の署名について分析されました。

それらの問題を下敷きとし、主人公が地名をつけ直すことが繰り返される吉田修一の小説『7月24日通り』で、地名(固有名詞)の変化が主人公の意識に負荷を与える点が強調されました。そして、ロラン・バルトのテクスト「プルーストと名前」「芸術の知恵」を扱い、固有名詞が無意識(無意志)的記憶と結びつき、私的記憶を含む厚みを持った文化圏(場所)を想起させるものであると読解しました。

最後に、ポール・エリュアールの詩「自由」が紹介され、詩のなかで繰り返し使用される「君の名前を書く」という単純なフレーズが、あらゆる場所から名前を奪い、別の名前(「自由」)を与え直す行為であること、と同時に、新たな書き込みの場を暗示する、最小限の要素にして読み手に開かれたものであることが指摘されました。

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右:マルセル・デュシャン《泉》1917


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