松浦寿夫|ボナール:フォーマットについて

July 16, 2008|講義

講座「THEORY ROUNDTABLE」の一環として、画家/美術批評家の松浦寿夫さんによる講義が7月10日に行なわれました。

カンディンスキーは回想録のなかで、モネの《積みわら》を見たとき、また、自分の絵を傾けたことに気付かずに見たとき、なにが描かれているのかという了解よりも先に、その美しさを感じたと語っています。彼は対象認知の必要性を疑問に付し、アブストラクションすなわち非対象(捨象)化への過程が、「なにが絵画であることを保証するか」という問題を含むことを示しました。カンディンスキーの答えは「内的必然性」というものでしたが、本講義では、それを作家の精神の内的必然性ではなく、絵画内部の構造=フォーマットの必然性という方向で検証していきました。

たとえば壁紙の外形は壁紙内部の構造とは無関係に、貼られる壁面の外形によって決定されます。対して絵画は、あらかじめ与えられた物理的な画面さえ必然的な様相として示さなければなりません。こうした観点から、ボナールの制作における、周縁部(額縁)へのこだわりや、木枠に張られていないカンヴァスから描きはじめる手順などに着目し、それらが生みだす効果や近さ(アンティミテ)、非言語的な視覚体験についての分析が行なわれました。

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