Prime Objects プライムオブジェクト――歴史を通り抜ける事物たちの思考

近畿大学国際人文科学研究所、
四谷アート・ステュディウム公開批評セッションの第一回として、
『プライムオブジェクト――歴史を通り抜ける事物たちの思考』を開催します。
プライムオブジェクトとは、この秋に待望の翻訳刊行が予定されている美術史家ジョージ・クブラーの『時のかたち』(George Kubler, "The Shape of Time", 1962)
の基本概念です。
クブラーは、人間の制作した事物がそれぞれ規範として自律した体系を組織していくという、その独特の思想によって、一元的に閉塞した美術史および文化論の枠組みを大きく乗り超える道を開きました。しかしクブラーの思想が正確に受け継がれてきたとは必ずしもいえません。むしろ20世紀後半から21世紀にかけて、文化はますます一元化へと加速しつつあると見なされ、批評もそれに伴走し無力化していると言われています。
しかし事物の生産過程は決して一元化されることはない。
クブラーにはこうした徹底した技術的な視点がありました。事物の生産を司るのは、事物それ自体である。事物はそれぞれが一つの法である。批評の可能性は、このさまざまにあり得る生産過程に立ち返ることで確実に取り戻されるはずです。
G.クブラー『時のかたち』とほぼ同時期に出版されたE.H.ゴンブリッチ『芸術と幻影』、C.グリンバーグ『芸術と文化』、トーマス・クーン『科学革命の構造』、レヴィ・ストロース『野生の思考』などと共に再読し、今日の批評的膠着をもたらしたパラダイムを解体し、多数性へと再構築を試みるセッション。

9月19日[火]

18:00-21:00(17:30開場)
岡崎乾二郎
中谷礼仁
松浦寿夫
岡田温司
田中純
浅田彰

9月20日[水]

18:00-21:00(17:30開場)
岡崎乾二郎
中谷礼仁
松浦寿夫
郡司ペギオ幸夫
※パネリストの登場日程が、配布ちらし情報から変更しました。ご了承ください。

artictoc

最新号
volume 2 2006 Fall
特集
Prime Object
かたちの素
introduction
岡崎乾二郎
interview
池成子[チ・ソンジャ]
interview
長嶋康郎
comment
中谷礼仁
comment
山崎広太
お申し込み・お問い合わせ
http://studium.xsrv.jp/artictoc
編集
artictoc編集部
発行
近畿大学国際人文科学研究所
二つの事物、あるいは二つの出来事は空間と時間の同じ座標を占めることができないのだから、すべての行動は前と後とでは必ず異なってしまう。二つの事物あるいは行動を同一であるとみなすことはできないのだ。そのような意味ですべての行為は発明になってしまうのである。けれども私たちの思考および言語の組織全体は、この非同一性に関する簡潔な主張を否定する。私たちはクラスやタイプやカテゴリーといった同一性の概念を用いて世界の簡素化することによってのみ、つまり、本来的に同一ではない事件が無限に継続する状態を、類似性をもつ有限の体系へと配列しなおすことによってのみ、世界を把握することができるのである。いかなる出来事も繰り返すことはないというのは存在の本性である。しかしそれに対して、私たちの思考の本質から言えば、私たちは諸出来事を、その中に想像された同一性によってしか理解できないのだ。(『時のかたち』抜粋)
Since no two things or events can occupy the same coordinates of space and time, every act differs from its predecessors and its successors. No two things or acts can be accepted as identical. Every act is an invention. Yet the entire organization of thought and language denies this simple affirmation of non-identity. We can grasp the universe only by simplifying it with ideas of identity by classes, types, and categories and by rearranging the infinite continuation of non-identical events into a finite system of similitudes. It is in the nature of being that no event ever repeats, but it is in the nature of thought that we understand events only b the identities we imagine among them. (George Kubler, "The Shape of Time")
クブラー/『時のかたち』

The Shape of Time
George Kubler

時のかたち
ジョージ・クブラー

人が作った事物一般の歴史を論じた、美術史家ジョージ・クブラー(1912-1966)の主著(1962年刊行)。ロバート・スミッソンら美術家にも多大な影響を与えたその著の革新性は、現代においても未だ超えられていない。鹿島出版会より今秋翻訳刊行予定。