いま、振動数700の純音と振動数800の純音が同時に鳴ったとする。2個の音を聴き分け、さらに注意深く耳をすましてみる。すると、当の2個の音とは異なる、もうひとつの音が聴こえてくるはずだ。その第3の音はどこから聴こえてくるのだろうか。この条件に、さらに振動数900、1000の2つの純音が重ねられると、この第3の音はますますはっきりと鳴りひびくのである。実在しないはずのこの音は、実際に鳴らされた、それぞれの純音の振動数の差の値からくるものだった。すなわち、(1000−900)(900−800)(800−700)すべての減算式から導かれる100ヘルツという解である。差音(Difference-tone)と呼ばれるこの振動数は、概念的/聴覚的には確かに存在する虚の音であった。個々の音の振動数は任意であろうと、それぞれの音間の振動数が常数であれば、この差音は誰の耳にも聴こえるものである。《無限音階》同様に、ここでも、我々は、聴いているのか、認識しているのかというアンチノミーに引き裂かれる。

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