宵の薄闇か暁の薄明か、時制の定まらぬ虚空に白く浮かび上がる民家の壁――すべてがシルエットと化した闇の中、光を返すのは画面中央のこの白壁だけである。けれど、すぐ横に昇りはじめた月がのぞく―明らかに不可能な位置関係。いや対抗する壁に月の光が反射し、さらに画面中央壁が反射していると考えれば、合理的にこれは可能である。むしろ由一がここまで屈折した仕掛けを企てたゆえに、光が照射された物質のみが画面に対象として描かれる――すなわち物質としての絵の具が盛られうる、という自明の理がここに明確に示されている。

[図]

1878 | 合板に紙、油彩 | 33.3×46.7cm