カントは決して靴下止めを用いようとしなかった。血液の循環が阻害されてしまうことを恐れたためである。だが靴下止めがなくては靴下を止めておくことは困難である。いかにして靴下止めなしで靴下を止めるか。このアンチノミーを解決するべく、カントは自ら非常に精巧な代用品を発明した(図1)。だがその負荷は足から腰ベルトに移され、今度は腰の血行を締め付けてしまう。サスペンダーによって、その問題解決(図2)を図れば、次には肩の血行を阻害してしまう(図3)。この一連の無限後退は、仮想上の「超越論的」支点として要請されるXによって解決されるまで終わらないだろう。以下に示されるのは、その様々な方法である(図4〜6)。

カントの発明についての参考資料
『カント : その人と生涯 : 三人の弟子の記録』
ボロウスキー, ヤッハマン, ヴァジャンスキー著
(ヴァジャンスキーによる逸話、創元社)
およびその翻案:「イマーヌエル・カントの最期の日々」トマス・ド・クインシー著
(著作集2巻所収、国書刊行会)

2003 | 半ズボン、靴下、靴下止め