日本最古の木造建築、法隆寺を撮ったこの作品は、羽仁進の代表作のひとつであるとともに、岩波映画史上においても重要な記録映画である。五重塔の、須弥山の洞窟の中に配された釈迦涅槃の場面を含む塑像群や、金堂の釈迦如来像、夢殿の百済観音など、法隆寺が擁する至宝が、多用されるフィックスやクロース・アップにより克明に描かれる。玉虫厨子を撮った場面では、その側面に描かれる釈迦の生涯をあらわす「捨身飼虎の図」が同様に大写しされ、またこの厨子=釈迦の墓を、信仰のために拡張したものが法隆寺であるという、この寺の成立の由来が説明される。だが、ここで仏像や美術品に向けられた視線は、信仰の対象としてそれらをとらえるものであるというよりも、個々の造形物を正確に記録し、再発見する視点であるといってよいだろう。さらに、この映画には、字幕がない。それら造形物は、映像と音楽とがぶつかり合うところにおいて、はじめて姿をあらわすようなものとなっているはずである(なお、同一の音楽が『初恋・地獄篇』でも用いられる)。
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