『通貨』は、『蝿のいない町』や『生活と水』と同様、生活水準を向上させるための啓蒙映画であった。1954年当時はまだ戦後の混乱とインフレが治まることはなく、これらの問題解決の糸口として、国民が通貨事情を知ることは必要不可欠だったのである。冒頭シーンの、それぞれ異なった仕事をしている人々の紹介は、お金が流通の中立ちをしているものであることを意識させる。昔の様々な貨幣を紹介した後、三椏(みつまた)という繊維から作り出される紙幣の製造過程や日本銀行職員の様子など、次々と貴重な映像が写し出される。社会におけるお金と物の流通の仕組みの図解(模型)映像はわかりやすく、万人が理解できるものである。このように、国民生活を豊かにするための基本知識を普及することに、当時の岩波映画は有効に働いていたのであった。また羽仁は形式的な啓蒙映画に取り組むことにより、映画創作の基礎を学び、そこから立ち現われた問題意識を、その後の精力的な創作活動の足がかりにしたといえよう。
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