法隆寺をおもな舞台に、古社寺の修復を専門にする寺大工が主題として描かれる。そして寺大工の西岡楢光に焦点を当てる。寺大工特有の道具を映した場面での、槍ガンナ(これは、『法隆寺』に登場する、金堂の屋根支である肘木を削るために用いられた)を操る様子。また、建築の解体の中で発見された、東室の柱に空けられた数多くの穴。この、各時代の建築の技術を刻印した徴でもある穴を、復元した「飛鳥尺」などを用いて、それが属する時代と用法を探る部分。それらは、寺大工の技術の貴重な記録となっており、「ひとつのショット自身が独立した力をもっている」記録映画の特質が発揮されたものであるといえよう。また、西岡楢光が南大門の巨大な柱を査定するように触れる場面では、観光の人々に法隆寺の説明をする添乗員の声、喧騒が重なる。ここに、文化財を保持する寺大工の役割を叙述すること、西岡楢光という人物を描くこと、そしてそれらをも含めた、法隆寺周辺に起こる状況自体を記録することという、この映画の試みが交錯する。
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