『小僧の神様』や『暗夜行路』の作者である志賀直哉を多角的に写し撮った作品。少年時代からの写真をアルバムのように見せてゆく冒頭シーン。続いて、プレスリーの音楽が流れる街を75歳とは思えない颯爽とした足取りで行く映像。時折挿入されるインタビューは、作家としてひとりの人間としてユニークで、興味深いものである。無神論者であり、石の仏像を蹴飛ばしたなどというエピソードやもの書きとしての信条、アメリカ/ソ連の冷戦問題まで縦横無尽に語り続ける。また生涯23回もの引越しを繰り返した志賀が終の住処とした谷口吉郎設計の邸宅内にカメラは入り、執筆の光景や私生活を撮る。大きなガラス窓を開けると、居間はまるで芝庭と繋がるように開放的だ。いかに生活と小説を書くことが繋がっているか。志賀を凝視し続けたこの映画の成功は、単なる小説家の記録を超えて、ひとりの人間が持つ無限の自由な精神をとらえたことにある。
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