実際に非行経験のある少年たちを俳優として使い、東京の繁華街、鑑別所や少年院での姿を描いた羽仁進の劇映画第1作。セットなしのオールロケーションで、照明を用いず、台本も稽古もほとんど用いない独特の手法により、少年たちの「演技」と「自分自身」との緊張関係を、フィクションとドキュメンタリーとの間で映しとった。窃盗のシーンの撮影では、少年たちは実際に警察に逮捕されることや通行人を怖れる極度の緊張と高揚状態に陥ったというエピソードがある。また、いくつかの場面で用いられたアフレコでは、少年たちがスクリーンの中の自分の姿を見ながら、心にうかんだことを言葉にし、それを録音して編集に使うという方法がとられた。そこは少年たちにとっての「あのときの自分」と「いまの自分」が一瞬、出会う場であったという。これらの様々な試みの中に、「生きることは、演技することである」ということにまつわる問題意識が貫徹されていたことが、スクリーンから伝わってくる。同時代のヌーベルバーグの動向もあいまって映画ジャーナリズムの高い評価をうけた名作。
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