1882年に開園した上野動物園は、第二次世界大戦中、猛獣処分を強いられた。そして戦後、不忍池端に水上動物園を開園したり、モノレールを建設するといったことで再生していく。近代が生み出したこの人工的な環境を舞台に、飼育係と動物の生活の記録をとおして、動物と人間のかかわり合いが、あらためて再考される。『教室の子供たち』など、子供たちを描いた作品では「1つの動作をカメラで追いつづけ、1つの画面にまとめてしまうというスナップのやり方」(『演技しない主役たち』)が用いられたが、この作品では、たとえば動物の寝姿において、全身・半身・アップのショットが分解して撮られ、つなぎ合わせることが試みられている。動物は頼んでも演技をしない(同じ動作を繰り返してくれない)ため、複数のカメラを同時に用いることのない撮影では、苦労が多かったという。しかし映し出される映像は、即物的なまでに動物の食事、睡眠、出産、育児、生と死といった動物園の日常をとらえ続ける。
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