2003.05.11 RAM LAB(田口卓臣 編)

マイケル・ムーア「ボウリング・フォー・コロンバイン」
(2003年カンヌ映画祭記念特別賞、2003年アカデミー賞ドキュメンタリー長編部門)
Bowling for Columbine
Michael Moore

October 2002

【マイケル・ムーアの公式サイト】http://www.michaelmoore.com/
【日本語による紹介】http://www.gaga.ne.jp/bowling/top.html


【概要】
このドキュメンタリー・フィルムは、1999年4月20日、コロラド州リトルトンのコロンバイン高校で起こった少年2人組による銃乱射事件を題材にしている。少年たちは12人の生徒と1人の教師を殺害したのちに自殺した。しかし作品は、全米に衝撃を与えたこの事件を足がかりにしながら、むしろ恐怖や強迫観念に基づくアメリカ文化の総体を批評の射程圏内に入れている。例えば、建国以来アメリカ政府によって世界各地で繰り返されてきた侵略の証拠映像のリストアップ、そうした暴力行為の反復がいかなる歴史的条件に基づいているのかを諧謔まじえた分かりやすさで整理した短編アニメ映画の挿入、などなど。そして何より、家のドアに鍵をかけようとしないカナダ人の生活状況が現地リポートされることによって、国内のセキュリティー(治安維持)と国外の安全保障(先制攻撃)とを短絡するアメリカの「恐怖の文化」の病があぶりだされていく。

しかし作品には、悲痛な訴え、といった雰囲気は微塵もない。全編にみなぎるユーモアがアメリカをはじめ世界各地で大ブレイクしたゆえんだろう。銃乱射事件の少年たちが帰依していた(それゆえアメリカ中から汚名を着せられた)歌手マリリン・マンソンの知性あふれるアメリカ批判、全米ライフル協会会長チャールトン・ヘストン(映画『ベン・ハー』の主演俳優)から思わずこぼれでる人種差別発言、暴力肯定発言をフィルムに定着させて、ドキュメンタリーとしての風格を高度に備えた傑作である。

【抜粋】
「観客が(アメリカの真実に)意気消沈して劇場を出れば、行動をおこそうなんて気にならない。めげる気持ちを怒りに変えるのがユーモアなんだ。グラウチョ・マルクスやレニー・ブルースなど最高のコメディアンたちは怒りの人でもあっただろう? 現実政治に対する風刺とユーモアのアメリカ的伝統は死んじまったけれど、まっとうな怒りを持ち続けるためにユーモアは必要なんだ。」(マイケル・ムーアの発言、『ボウリング・フォー・コロンバイン』パンフレットより)

【アカデミー賞受賞式の演説にかんする英語記事】
アカデミー賞授賞式において「恥を知れ、ブッシュ」との演説をおこない会場から大喝采を受けたムーアによれば、この演説の後、映画の興行成績は110パーセントアップ。反戦を訴えることが、ビジネスとして成功する事実まで証明してみせた。
The Mercury News
Moore says speech didn't hurt his popularity
By Glenn Lovell; Mar. 27, 2003

【参考図書】
マイケル・ムーア『アホでマヌケなアメリカ白人 Stupid White Men』柏書房
http://plaza16.mbn.or.jp/~everydayimpress/Bookreview/review11.htm
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