2003.12.24. RAM LAB(田口卓臣 編)


C・ダグラス・ラミス
「現地で迷惑にならないように、イラクを助ける方法」
    C. Douglas Lammis
雑誌『世界』2003年12月号(no.721)

【概要】
ダグラス・ラミスのこの短いエッセーには、今の日本の状況を考えるうえで重要なポイントが簡潔に示されている。

第一に、日本の刑法も認める正当防衛・緊急避難といった「正当暴力権」(個人)のレベルと、戦争や軍事行動といった「交戦権」(国家)のレベルとを混同してはいけないこと。この意味で、「国の交戦権」を認めない日本国憲法第九条は、テロ対策特措法に対してさえ拘束力のある実定法として生きていること。

第二に、自衛隊のような「軍隊の格好をしながら、軍隊の法的根拠となる交戦権を持たない組織」を、いまだに戦争のつづくイラクに送ることが、いかに危険であるかということ。しかもそれがイラク人にとってばかりか、アメリカ軍やイギリス軍にとってさえ迷惑になりかねないこと。この点について、ダグラス・ラミスは、自衛隊がカンボジアに派遣されたときに国連平和維持軍に大迷惑をかけたことを思い起こさせる(詳細は『憲法と戦争』晶文社)。「自衛隊のような訓練された組織にしか、イラク復興の手伝いはできない」という政府閣僚たちの発言は根拠薄弱であることが、ここからはっきりと読み取れる。

第三に、イラクへの自衛隊派遣を強行する日本政府の政治目的は、アメリカ政府を喜ばせることだけではないこと。むしろ世論に対して、「自衛隊」と「日本国憲法第九条」との間の深刻な矛盾を突きつける意味合いがあること。この点について、著者は「政府はわざわざ自衛隊員を殺してもらうために派遣しているようなものだ」との意見を紹介しながら、近い将来の日本で、マスコミの論調が「だから自衛隊をイラクに送るべきではなかった」vs「だから交戦権を否定する憲法を変えるべきだ」という深刻な対立に発展するだろうと予測する。

第四に、アフガニスタンやイラクに対して使用した大量の劣化ウラン弾について、アメリカ政府はろくな調査もせずに「被曝の危険はない」と説明していること。一方、日本は世界唯一の原爆被曝国として、広島赤十字・原爆病院、長崎赤十字・原爆病院などによる半世紀以上の原爆病治療の経験を蓄積していること。著者によれば、これらの医療機関は、広島・長崎の被曝者だけではなく、たとえばチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故による被爆者などの調査も行っているのである。

以上のポイントを踏まえたうえで、日本ができる真の、役に立つ国際貢献、イラク復興支援とはなにか。ダグラス・ラミスはこう提言する。

【抜粋】
「もし日本政府に、イラクの人々を少しでも助ける気があれば、自衛隊派遣を止め、そのお金(の一部で足りるだろう)で、放射能被曝の専門家の調査団をイラクへ派遣して、劣化ウラン弾による被曝状態を徹底的に調査し、そしてその被爆者の(イラクでの、場合によっては日本での)治療に専念すればよい。そしてもちろん、アフガニスタンへも同じような調査団を送る。イラクとアフガニスタンの被爆者は、日本国が被害者側ではなく、加害者側に立った、初めての戦争被爆者であることを考えれば、特にそれぐらいの責任をとるべきではないだろうか。」

【参考】
ダグラス・ラミス著作目録
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Keyaki/5845/lummistyo.html

9条連
http://www.9joren.net/

【参考文献】
ダグラス・ラミス著『なぜアメリカはこんなに戦争をするのか』晶文社、2003年
ダグラス・ラミス著『憲法と戦争』晶文社、2000年
ダグラス・ラミス、加地永都子共著『ラディカルな日本国憲法』晶文社、1987年
池田香代子訳(ダグラス・ラミス監修)『やさしいことばで日本国憲法 新訳条文+英文憲法+憲法全文』マガジンハウス、2002年
池田香代子訳(ダグラス・ラミス監修)『世界がもし100人の村だったら』マガジンハウス、2001年

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