2003.03.27 RAM LAB(岡崎・攝津・田口・中谷)

倒錯されたテロリズム――精神疾患による戦争

【目次】

"Shock and Awe" 作戦――想像力の貧困と残虐
"Shock and Awe" 作戦 についての資料と分析
参考サイト


1 "Shock and Awe" 作戦――想像力の貧困と残虐
 衝撃と畏怖 作戦の 盲点は それが 感情的な尺度に基づいている点にある。それは主観的な尺度である他ない。そして、その尺度はイラク人ではなく、これを立案した アメリカ側の感情反応を直接反映している。ラムズフェルドが、この作戦で使用するはずの最新兵器を披露するさいに、まさに恍惚とヨダレをたらさんばかりに弛緩しきった顔をテレビカメラの前に晒けだしたのを思いだせば(それは滑稽な光景であるだけだった)、畏怖を感じているのは作戦立案者たちだけであることははじめから明らかだった。端的にこれは 9.11 が生みだしたダブルバインドな感情反応の反復である。一度も本土空襲されたことのないアメリカ人たちは、目の前でマンハッタンで最も高い双型のビルが正確無比な精度で、まさにピンポイントで同時に崩れ落ちるのを目撃させられたとき、怒りを感じる以前に、不覚にも 衝撃と畏怖 を感じ取ってしまった。この名称に示されているのはその事実である。(*)

敵を徹底的に破壊して、なお畏敬を感じさせる。この作戦が目指す およそ実現しそうもない矛盾は、当の立案者たち自身に(パブロフの犬のように)埋込まれた精神的外傷以外の何物でもない。

しかし、この計画にダブルバインドのヨダレを流すのは、プリッツェルを見るとヨダレを流すのと同じように、きわめて主観的な偏向にすぎない。アル中の患者が見た妄想を他人に見せようとするのと同じく、これが客観的に実現する可能性はほとんどありえない。

10年以上の長い期間、爆撃を受けつづけてきた人々が そのような感覚を覚えることはほとんどありえない。あらゆる作られたものはいつかは崩壊するものであり、攻撃されるものである。この絶望がもはや日常となった場所で。破壊が、衝撃を与えることも畏怖を与えることもない。想像力の乏しさ、愚かさ、鈍化した知性への哀れみを感じるだけである。

(*)誇り高いアメリカ人たちには、そうではない、われわれは畏怖などを感じず、ひたすら怒りを感じ、テロリストと戦う勇気と決意をこそふるいたたせたという反論もあるだろう。しかし そうであれば、この攻撃を受けたイラクの人たちもまた同じく、以前以上のアメリカへの反発と対抗を決意するのではないか。この攻撃計画の意図とは反対に、すでに以下のような報告がある。すなわち今やアメリカはテロリズムの連鎖――拡散に従事する世界最大のテロ国家の座についたということである。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030327-00000086-mai-int

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2 "Shock and Awe" 作戦 についての資料と分析
●awe という語
http://www.docguide.com/dgc.nsf/html/English-Dictionnary.htm
「極度の恐怖、畏敬、驚きなどの感情。権威ないしは聖なるもの・崇高なものによって引き起こされる」

● 概要
2003年3月20日より、イラクの首都バグダッドに対して米軍が空爆を行なっている。この空爆計画は"Shock & Awe"(衝撃と畏怖)と呼ばれ、アメリカの国立防衛大学で開発された構想に基づいている。多量な武器を一気に投入することによって、「敵の軍事力を物理的に破壊することよりも、むしろ戦意を喪失させる心理的効果」をねらったものである。↓
http://www.ribbon-project.jp/SR-shiryou/shiryou-03.html

●原論の背景
同計画の概要は以下のホームページで知ることができる。
↓"Shock and Awe"
http://www.dodccrp.org/shockIndex.html
迅速な支配の達成を目指したこの計画は、元海軍出身のHarlan K. ウルマンらによってまとめられたものである。その最大のねらいは、瞬時の大規模な攻撃によって敵に理解不能なぐらいの圧倒性をイメージとして植え付けることである。それによって敵は意志、知覚、および理解を中止し、攻撃側に畏怖の念を抱くようになる。
・この計画の基盤には、日本人は広島の原爆投下によってアメリカに畏怖の念を抱いたというアメリカ人たちの確信(誤解)があった 

http://www.dodccrp.org/shockintro.html
・理論の背景として、ウルマンは春秋時代の兵法家孫武の著「孫子」とクラウゼウイッツの戦争論を挙げている。ウルマンによれば建武は「戦争は詐欺である」ことをよく認識していたといい、戦いが始まる前に敵の武装解除を図るのが最も有効な手段だとした。だが孫子は実際の戦闘を避ける外交術こそを優位においている。ウルマンの教養の限界か。アメリカ軍の戦略的知性の限界か。
↓孫子
http://plaza10.mbn.or.jp/~aa/suntzu.html
・ウルマンによれば、敵の完全な殲滅(絶対戦争)を唱えたクラウゼヴィッツが目指したのも、圧倒的な兵力によって、敵の意志を破壊することであった。しかし本来、「戦争による勝利」と「完全な制圧」とは別のものであり、この混同によって第一次大戦以降の無意味な全面戦争がくりかえされてきたという主張もある。

クラウゼヴィッツ
http://www.bekkoame.ne.jp/~bandaru/deta01k5.htm
・結論として、"Shock and Awe"は実体的な「完全制圧」をせずに、心理的キャンペーンによって敵の意志、知覚、および理解を砕こうというリーズナブルな戦術だとされる。
↓実証的データの欠如した単純な論理展開。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030324-00000260-jij-int

●イメージとサブライム
このような実体性なき(あるように見せる)イメージ戦略が、敵に「畏怖」の念を植え付けることができるという美学的確信の出自。

カントによれば、崇高は「絶大」という「量」の概念にもとづく。
たとえば広大な砂漠や星空、巨大なピラミッドには、その広さ・大きさによって崇高を感じる。また、火山のすさまじい破壊力や、同じ海でも荒れ狂う海には、その力故に崇高を感じる。カントは前者を「数学的崇高」、後者を「力学的崇高」と呼んだ(「自然は恐怖の対象として考えられる限りにおいてだけ力として考えられる)。

http://saucyjack.phys.columbia.edu/sjk/node7.html#tex2html9
http://www.kcl.ac.uk/kis/schools/hums/philosophy/PhilosophyNow/PhilNowSample2.html

だが カントは正確にこう記す。崇高とは対象の性格に属すのではなく、あくまでもそれを受け取る主観の中にのみ生じる。
・WTCの廃虚をそのままにしてください という歎願の記事(アメリカ人が廃虚への畏敬――崇高を感じていることを示す)。

http://www.spiritualityhealth.com/newsh/items/blank/item_3323.html
崩壊した教会を崇高美として描く Caspar David Friedrich (1774-1840)の絵画との酷似している。

http://artmagick.com/images/p11cs/friedrich/friedrich13.jpg

●「圧倒的」に間抜けな計画がもたらす 修復不能なダメージ
アメリカ側の疑似的な倫理(軍事施設のみの攻撃)は、その圧倒性をそもそも達成できていない。あいつぐ精密誘導兵器の数値の打込みちがいによる誤爆はハイテク兵器に見合わない知性と技術の劣悪さをさらけ出しているだけである。さらに味方同士の誤爆、相打ちがこれほど多い戦場はかってなかった。無器用さと無神経さによるイラク民間人の犠牲者の増大。もはやこの作戦によってもっとも強烈なダメージがあたえられているのはイラクではない。アメリカという国家そのものが失墜しているのだ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030326-00000112-yom-int
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Iraq/iraq_body_count.htm
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=425258
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=426615

・「もう苦しめないで」バスラ空爆下のイラク人医師の報告
http://www.mainichi.co.jp/news/article/200303/23i/005.html

・イラク軍の戦意を喪失させるどころか、激しい抵抗に遭って米英軍は苦戦している。この愚劣な作戦とそれがもたらす単純な結果としてのジェノサイドによって、一般市民また反フセイン勢力まで、米英軍を「解放軍」として歓迎するどころか、アメリカに対する強烈な侮蔑と、抵抗を激化させる正反対の結果をもたらせている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030327-00000086-mai-int
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/20030325k0000e030086000c.html

●ダブルバインド
テレビに写されるイラク側の光景はかって9.11で写されたニューヨークの光景と著しい対照を見せている。ピンポイントの「圧倒的」爆撃で大統領府が崩壊していく最中、平然と自動車が走り、お買い物がされるという事態である。ここで不安にさらされているのは、そこにいる人間ではなく、それを見つめている人間である。あるアメリカ兵がいった『彼らはなぜ逃げないのか』
http://reuters.com/newsArticle.jhtml?type=topNews&storyID=2433522
これを考えるには、有名なダブル・バインド理論が役に立つ。犬の逸話によって有名な、ダブルバインド(二重拘束)理論とは、矛盾する情報や禁止を同時に提示された受け手側が混乱を経験することである。矛盾する命令を受けた犬は、「興奮し、身悶えし、吠え回った」。しかしここでダブルバインドにさらされているのは イラク人ではなく、イラクを解放する という大義 とまったく矛盾する虐殺を強要されているアメリカ兵たちである。
・パブロフによる犬の実験
http://www.prodr.com/prod/maho/pavlov.html
つまりこの圧倒的攻撃は、この作戦に参加しているアメリカ兵たちの心的側面に、大きな障害をもたらす可能性が高い。
さらに以下のような報告さえなされている。
・アメリカ人の方が悩んでいる("Shock and Disgust"衝撃と嫌悪)
http://www.democraticunderground.com/articles/03/01/31_shock.html

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【参考サイト】
●"Shock & Awe"についての批評
http://www.commondreams.org/views03/0127-08.htm
http://www.sweetliberty.org/issues/war/iraq/shockandawe.htm
http://www.alternet.org/story.html?StoryID=15027
●湾岸戦争従軍兵士ケン・ニコラス氏、人間の盾としてイラクに
http://maebashi.cool.ne.jp/sinken2001/ningen.htm
●イラクで五十万人の避難民
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=425178
●アメリカ軍、味方の英軍機を誤射
http://www.asahi.com/international/update/0324/015.html
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=425278
●イランを誤爆
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=425258
●民間バスを誤爆
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=426615
●US plans "shock and awe" blitzkrieg in Iraq
http://www.wsws.org/articles/2003/jan2003/war-j30.shtml
●"Shock and Awe" strategist worries about fallout from bombing blitz
http://story.news.yahoo.com/news?tmpl=story&u=/afp/20030322/wl_mideast_afp/iraq_war_us_ullman_1
●Shock and awe
From Disinfopedia, the encyclopedia of propaganda.
http://www.disinfopedia.org/wiki.phtml?title=Shock_and_awe
●Iraq: 'Shock and Awe' Attack - Amnesty International Seeks Urgent
Clarification of Measures to Protect Civilians
http://www.web.amnesty.org/ai.nsf/Index/MDE140362003?OpenDocument&of=COUNTRIES%5CIRAQ
●Shock and awe
From Wikipedia, the free encyclopedia.
http://www.wikipedia.org/wiki/shock_and_awe
●SHOCK AND AWE
The Mother Of All War Shows
http://www.sweetliberty.org/issues/war/iraq/shockandawe.htm
●Shock and Awe ...
Iraq Faces Massive U.S. Missile Barrage
http://www.shockandawe.com/shockappa.html
●What if 'shock and awe' doesn't work with Saddam?
http://straitstimes.asia1.com.sg/commentary/story/0,4386,178108-1048197540,00.html
●ビデオ映像
http://www.asahi.com/motion/ap/wmp/TKY200303220002.html
●パウエル国連演説へのANSWERの回答
http://homepage2.nifty.com/mekkie/peace/iraq/news/039.html
●イラク戦争:
大規模空爆 戦意喪失狙う「衝撃と畏怖」作戦
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200303/22/20030322k0000e030054001c.html
●アメリカ、トルコ、北朝鮮、イラクの関係について簡単にまとめたページ
http://www.foreignaffairsj.co.jp/Iraq/IraqToday.htm
●「衝撃と畏怖」を与えるはずの米英軍の間で、士気が低下
http://news.msn.co.jp/articles/snews.asp?w=425388
●戦争後に残る環境的影響(一般論)
http://dedijer.com/article.asp?article=Engulfed_by_war
http://xmas.site.ne.jp/topics/20010922/aoyama.html
http://www.spiritualityhealth.com/newsh/items/blank/item_3323.html
●「衝撃と畏怖」の犠牲者
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/index.html
http://www.uscrusade.com/
http://www.aljazeera.net/index.htm
●市民の犠牲者数のカウント
http://www.iraqbodycount.net/bodycount.htm

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