2004.01.06. RAM LAB(倉数茂 編) | ||
トマス・ジェファーソン「アメリカ独立宣言」 |
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The Declaration of Independence Thomas Jefferson 松本重治訳 中央公論社『世界の名著41』より |
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【原文】 http://www.tdf.it/2003/Indipendenza_e.htm |
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【概要】 |
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『アメリカ独立宣言』は、一七七六年、後の第三代大統領トマス・ジェファーソンによって起草され、十三植民地の代表が構成する大陸会議において若干の修正を施されたうえ、アメリカ市民と諸外国とに向けて布告された。これはフランス人権宣言に続いて、公的に人間の平等と人権、さらに人民主権を告知したものとして、現在にいたるまで最重要の歴史文書のひとつと目されている。 しかしこの宣言を読み返すものは、現在のアメリカ合衆国政権が、いかにその「建国の精神」から遠くかけ離れ、宣言の意図を裏切り、傷つけ続けているかに気づかざるを得ない。『独立宣言』は何よりも、海外から暴力による政治的・経済的支配をもくろむ権力への、地域住民からの訣別の書なのである。なるほど宣言はdespotism(専制)とtyranny(暴政)に抗して立ち上がるのは人民の権利であり義務ですらあると述べている。しかし、それは、外国勢力が軍事力をもって介入することを容認するものでは断じてない。宣言は、政治権力は被治者の同意に由来しなければならないと述べているのみならず、くりかえしイギリス本国、すなわち植民地住民の直接の信任を受けていない権力による圧力と武力行使を非難しているからだ。宣言が、「(イギリス国王が軍隊を派遣して)われらの海洋を掠奪し、海岸を侵略し、都市を焼き、住民の生命を奪った」と述べるとき、私たちはアフガンやイラクにおける惨状を想起せずにはいられない。「(イギリス国王は)文明国の首長の行為として全く価しない、残虐と背信の事態のもとに始められた死、荒廃、暴政の事業を完遂するために、いま現に外国人傭兵の大軍を輸送しつつある」というとき、現在イラクに進駐を続け、さらに新たに派兵されようとしている同盟諸国の軍隊を思い浮かべないわけにはいかない。 今、『独立宣言』をもっとも深い共感を持って読むことができるのは、アメリカをはじめとする強大な国家によって抑圧されている、世界諸地域の民衆であるにちがいない。なぜならこの文書が力強く宣言しているのは、本来奪いがたいはずの生得の権利、つまり自ら自分たちの統治者を選ぶという権利なのだから。ワシントン、ジェファーソンといったFounding Father(建国の父)たちが、イギリスという当時の覇権国家に対して掲げたIndependenceの精神、すなわち力による政治からの離脱と、民衆による自治という夢は、三百三十年の時を経て今もその理想を訴え続けている。 |
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【抜粋】 |
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「われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、造物主によって、一定の奪いがたい天賦の諸権利を付与され、その中に生命、自由および幸福の追求のふくまれることを信ずる。また、これらの権利を確保するために人類の間に政府が組織されること、そしてその正当な権力は被治者の同意に由来するものであることを信ずる。 (略) 彼(=イギリス国王)は、司法権の制度を樹立する法律に裁可を拒むことにより、司法の行使を阻害した。 彼は、裁判官を、その任期および報酬について、全く彼の一存により左右される地位に置いた。 彼は、おびただしい数の官職を設け、われら(植民地)の人民を悩ましめ、その物資を消費しつくすべく、無数の役人を派遣した。 彼は、平時において、われわれの間に、議会の同意にもとづくことなく、常備軍を置いた。 彼は、軍部をして、文官の権力より独立し、また優位に立たしめるよう措置した。 彼は、本国議会の越権の立法に裁可を与え、これと協力して、われらの憲法の認めず、法律の承認せざる立法の権限に、われらを服従せしめた。すなわちその立法とは── われらの間に多数の軍隊を宿営せしめ、 彼らがたとえ諸邦の住民に対して殺人を犯すことがあっても、偽装の裁判によって、処罰から免れしめ、 われらの世界各地との通商を切断し、 われらの同意なくして租税を賦課し、 多くの事件において陪審による裁判の利益を奪い、 無実の罪科を理由とし裁判を受けるため人民を海外に送り、 隣接のイギリス領地域(クェベック)においてイギリス法の自由なる法制を廃止し、そこに専断的政治を樹立し、加うるに、その地方境界を拡大して、もって同様の専制的統治をわが諸植民地にも押し及ぼす先例と手段たらしめ、 われらの特許状を撤回し、最も貴重なわれらの法律を廃止し、われらの政府の形態を根本的に変更し、 われらの(各植民地)議会の活動を停止せしめ、いかなる事項についても、本国がわれらのために立法する権限ありと宣言したものであった。 彼は、われらを国王の保護の外に立つものと宣し、われらに対して戦争を行うことにより、植民地における統治を放棄したものである。 彼は、われらの海洋を掠奪し、海岸を侵略し、都市を焼き、住民の生命を奪った。 彼は、いかなる野蛮時代にも比類少なく、文明国の首長の行為として全く価しない、残虐と背信の事態のもとに始められた死、荒廃、暴政の事業を完遂するために、いま現に外国人傭兵の大軍を輸送しつつある。」 |
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【注】 |
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ただし、アメリカ建国が、先住民の大量殺戮によって可能となった事実を無視することはできない。この点については当サイトのREVIEWで紹介した星川淳「アメリカという難題」(2003.04.15)を参照。 | ||
【参考】 |
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「アメリカ独立宣言」の平易な訳文 http://hw001.gate01.com/katokt/independence.htm |
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