[美術]
2004.4.3  池田孔介

MITから文化を発信する

LIST VISUAL ARTS CENTER

 ボストンにあるマサチューセッツ工科大学はあまりにも有名だが、この大学がアートにも力を注いでいることは、日本ではそれほど知られていないのかもしれない。そしてそのような文化事業の拠点となっているのがMITの敷地内に建物を構えるリスト・ヴィジュアル・アーツ・センターである(art center とせずに、あえてvisual arts centerとするのは、工学系の大学にあって明確に視覚的芸術の意味合いを示すためだろうか)。

 ここでは、センター内ギャラリーにおける展覧会の企画運営のみならず、大学にある建築および改築の予算のうちの数パーセントをアートのための予算として取り扱い、それをもとにアーティストと建築家とのコラボレーション事業としてのパブリックアート制作をプロデュースしたり、世界各地からアーティストをレジデンスさせ、そこで制作した作品をパーマネントコレクションとしてMITの敷地内に増やしていくためのプログラムを運営するといった、非常に興味深い活動が行なわれているのだ。事実、これらの活動の成果も相まって、大学の敷地には建物の内外に40点近いパブリックアートや絵画などのコレクションが設置されており、部外者がいつでも見てまわれるようになっている。東の隅にある図書館のなかにかなり質の高いオリツキーの大作を観ることができるのは驚きだし(しかもそのことをライブラリアンが知らなかったりするのも、また驚きだ!)、その図書館の前にはピカソの彫刻まである。このようなコレクションは今後もさらに増え続けていくことだろう。

 「リスト」の活動以外にも大学内では、私が訪れた時にすでに完成間近といった様子であったフランク・ゲーリーのStata Centerという強烈なインパクトを放つ建築もすぐに見ることができるようになるだろうし、さらにあの有名なMIT PRESS専門の本屋もあり、少し前に出版した新品の本をかなり安く手に入れたりすることもできるなど、訪問客にとっての見どころは数多い。

 日本の大学にもこのような、長期的視野を持って文化的洗練度を国内外へ向けアピールする戦略がほしいところなのだが、そのための展望(と予算)をどこも持ち得ていないというのが実情だろうか。仮にもしあったとしても、そのプログラムが、どこかの芸大の偉い先生にゴミのような彫刻を造って頂く、というようなものになりかねないので、それもまた困るのだけれど。

LIST VISUAL ARTS CENTER
http://web.mit.edu/lvac/www/

Stata Center
http://web.mit.edu/buildings/statacenter/

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